Concrete CMS保守引き継ぎを効率化 〜社内向けエージェントスキル開発の実践例〜

菱川拓郎
菱川拓郎

マカルーデジタルでは、Concrete CMSの日本有数の専門企業として、既存の Concrete CMS サイトの保守引き継ぎのご相談を多くいただいています。

前任のベンダー様の事情により保守が継続できなくなった場合でも、オープンソースであるConcrete CMSはメンテナーの変更が可能です。これは大きなメリットの一つです。

一方で、引き継ぎ時には避けて通れない工程があります。
それが、既存カスタマイズの把握です。

Concrete CMSの保守を引き継ぐ際には、テンプレート、ブロック、パッケージ、イベント、オーバーライドなど、どこまで手が入っているかを確認する必要があります。しかしこの作業は、どうしてもエンジニアの経験と読解力に依存しやすく、一定の工数がかかります。
これまでも調査費用はいただいていましたが、実際にはその費用以上に工数がかかるケースも少なくありませんでした。

そこで今回、私たちは AIエージェント向けの社内スキル を開発し、エンジニアとAIが役割分担しながら、より適正な工数で、より明確な確認を行える仕組みを整えました。

スキルで何ができるのか

今回開発したスキルは、Concrete CMSプロジェクトに対して、保守引き継ぎ時に確認したいポイントを整理しながらレポート化するものです。

主に次のような内容を確認できます。

カスタマイズの全体像を把握する

  • 独自ブロックや独自機能の有無
  • ブロックテンプレートやページテンプレートの追加状況
  • コアに対するオーバーライドの有無
  • パッケージや application 配下のカスタマイズ状況
  • イベントや bootstrap など、振る舞いに影響する処理の追加

このような情報を、コードベースを横断しながら一定の観点で整理し、プロジェクトのカスタマイズ概要としてまとめられるのが特徴です。

引き継ぎ時のリスクを見つけやすくする

保守引き継ぎで重要なのは、単に「何があるか」を知るだけではありません。
実際には、どこが将来的なリスクになりそうか を早い段階で把握することが重要です。

たとえば、

  • コアクラスの強いオーバーライドがある
  • アップデート時に影響を受けやすい実装がある
  • 挙動の起点が分かりにくいイベント処理が追加されている

といった点は、引き継ぎ後の保守性や改修難易度に直結します。
スキルを使うことで、こうしたポイントを一覧化し、エンジニアが優先的に確認すべき箇所を絞り込みやすくなります。

エンジニアとAIが役割分担できる

この取り組みで重視しているのは、AIにすべてを任せることではありません。
AIが全体の洗い出しや整理を担い、最終的な技術判断はエンジニアが行う、という役割分担です。

  • AI:コードベース全体の調査、観点ごとの整理、レポート下書き
  • エンジニア:妥当性確認、個別実装の読解、見積・提案への落とし込み

この分担により、抜け漏れを減らしながら、必要な箇所にはしっかり人手をかける運用がしやすくなりました。

実際の使い方

使い方は非常にシンプルです。
担当者がAIエージェントに対して、「このプロジェクトのカスタマイズの概要を出してください」 と依頼するだけです。

すると、スキルが社内で定義した観点に沿ってプロジェクトを確認し、保守引き継ぎ時に把握しておきたい情報を整理して返します。

つまり、複雑な操作や特別なコマンドを覚える必要はありません。
現場では、まずAIに概要を出させ、その結果をもとにエンジニアが深掘りする、という流れで活用できます。

この「最初の全体把握」を素早く行えることが、実務上かなり大きな意味を持っています。

実際の出力イメージ(簡略版)

実際にスキルが生成するレポート(overrides.md)は、以下のような形式になります。
※実案件の内容が分からないように簡略化しています。

カスタマイズチェック結果

概要

プロジェクトには複数のカスタマイズが存在し、特にブロックコントローラの拡張やイベント処理の追加が確認されました。
一部のブロックではコアクラスの上書きが行われており、アップデート時の影響に注意が必要です。

カスタムテンプレート

  • autonav: パンくず表示をカスタマイズ
  • page_list: ニュース・事例一覧用テンプレートを追加

オーバーライドされたコントローラー

  • page_list:
    • コアクラスを完全上書き
    • パラメータ検証ロジックを追加

カスタムブロック

  • 動画連携用ブロック
  • 事例情報表示用ブロック

イベント / Bootstrap

  • キャッシュ制御のカスタマイズ
  • ページ複製時の制御処理

メンテナー向けの注意点

  • YouTube ブロックのデフォルトテンプレートがオーバーライドされており、直近のアップデートで追加された機能が未反映。

テスター向けの注意点

  • 本番・ステージング環境でのみCDNキャッシュクリアに関するカスタマイズがあるため、ステージング環境以降でのテスト時には配慮すること。

このように、プロジェクトの状態を人がレビューしやすい形で整理して出力できるため、初期調査のスピードと精度を両立しやすくなります。

今後期待されること

今回の取り組みによって、保守引き継ぎにおけるAI活用の実用性がかなり見えてきました。

見積もりや初期診断の精度向上

従来は、調べながら徐々に全体像が見えてくることが多く、初期段階では不確実性が残りがちでした。
しかし、AIが一定の観点で事前整理してくれることで、

  • カスタマイズの量
  • 影響範囲
  • 保守上の注意点
  • 深掘りが必要な箇所

を早い段階で把握しやすくなります。

これにより、見積もりや初期提案の精度向上が期待できます。

保守引き継ぎプロセスの標準化

調査作業はどうしても属人的になりやすい領域です。経験豊富なエンジニアほど着眼点は増えますが、その一方で、品質を横展開するのは簡単ではありません。

社内スキルとして確認観点を明文化しておくことで、調査の入り口を標準化しやすくなります。
これは単なる工数削減ではなく、保守引き継ぎの品質を安定させる取り組みとしても意味があります。

社内知見がAIスキルとして蓄積されていく未来

今回のスキルは公開用ではなく、社内向けの非公開スキルとして運用しています。
これは単に「便利なプロンプトを作った」という話ではなく、私たちがこれまで培ってきた Concrete CMS の保守・調査ノウハウを、再利用可能な形に整理しているということでもあります。

これから先は、会社ごとに持っている独自の業務知識や判断観点が、AIエージェント向けのスキルとして蓄積されていく流れが強まっていくはずです。

これまで社員の経験に属人的に埋め込まれていた知見が、スキルとして言語化・構造化されていく。
そうなることで、AIは単なる汎用ツールではなく、その会社らしい仕事の進め方を反映した業務資産になっていくと考えています。

私たちにとっても、Concrete CMSの専門企業として蓄積してきた知見を、社内で継続的に活用しやすくする大きな一歩になりました。

AI活用の対象はさらに広がる

弊社ではすでに、

  • セキュリティ観点の確認
  • アップデート影響調査
  • パフォーマンス改善の論点整理
  • 改修前の影響範囲確認

といった業務でも、AIエージェントを活用した業務改善に取り組んでいます。

特定業務に対する社内スキルを整備することで、AI活用は単発の効率化ではなく、組織としての実行力を高める基盤になっていくはずです。

まとめ

Concrete CMSの保守引き継ぎは、専門性が高く、初期調査にも工数がかかる業務です。
だからこそ、経験のあるエンジニアの知見をどう再利用し、どう効率よく調査につなげるかが重要になります。

今回、私たちはAIエージェント向けの社内スキルを開発し、

  • カスタマイズ概要の素早い把握
  • 引き継ぎ時の確認ポイントの整理
  • 調査工数の最適化
  • 社内知見の蓄積と再利用

を進められるようになりました。

AIにすべてを任せるのではなく、AIとエンジニアが役割分担することで、より実務的で再現性の高い運用が可能になります。

マカルーデジタルでは、今後もConcrete CMSの専門知識とAI活用を組み合わせながら、保守・運用の品質向上に取り組んでいきます。
Concrete CMSの保守引き継ぎや現状調査でお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。