【AIエージェント構築とは #2】資料作成だけではない、企業のAI活用

菱川拓郎
菱川拓郎

生成AIを仕事で使っていますか?

使っているとしたら、どんな仕事に使っているでしょうか。

帝国データバンクが2026年5月に発表した「生成AIに関する企業の動向調査」によると、生成AIを業務で活用している企業は34.5%でした。

そして、生成AIを活用している企業の主な用途として最も多かったのは、「文章の作成・要約・校正」の45.1%でした。

メールや文章を書いてもらう。長い資料を要約してもらう。プレゼンテーションを作ってもらう。確かに、生成AIはこうした仕事をとても得意としています。

でも、企業におけるAI活用は、それだけでしょうか?

企業には、何か新しいものを自由に作る仕事だけではありません。毎日のように繰り返す仕事があり、会社として守るべきルールがあり、担当者が変わっても同じように進めなければならない仕事があります。

そうした仕事まで考えると、企業におけるAI活用には、まだかなり大きな余地がありそうです。

「何でもできるAI」を、どう使うか

現在の生成AIの大きな特徴は、その汎用性です。

文章を書いてもらうことも、要約してもらうことも、アイデアを一緒に考えてもらうこともできます。データを渡して分析を頼むこともできます。図を描いたり、動画を作成することもできます。

一つのAIが、さまざまな仕事を手伝ってくれます。

ただし、そこには一つの前提があります。

「何を、どう手伝ってもらうのか」は、人間が指示する必要があります。

この資料を要約してほしい。このテーマで企画案を出してほしい。この文章をこのようなトーンで書き直してほしい。

利用者が仕事を理解し、その中からAIに任せる部分を見つけ、適切な情報と指示をAIに渡します。

そのため企業でAI活用を進めようとすると、「社員にAI研修をしよう」「良いプロンプトを共有しよう」「もっとAIを使いこなせる人を増やそう」という方向へ行きがちです。

もちろん、それも必要です。

でも、会社として何度も繰り返す仕事についてまで、毎回それぞれの社員が、

「この仕事では、AIをどう使えばいいだろう?」

と考える必要があるのでしょうか。

ノーコードで自由に作れるWebサイトと、企業向けCMS

AIの活用方法について考えていると、実は私たちが長く関わってきたCMSの世界とよく似ていることに気づきます。

もともと、WebサイトはHTMLやCSSを学べば、資格もなく、誰でも作ることができます。また、ノーコードのWeb制作ツールを使えば、そのような知識さえ不要で、自由にWebページを作ることができます。

好きな場所に文章や写真を配置して、好きなデザインのページを作る。

これは、汎用的な生成AIに「こんなプレゼンテーションを作って」と頼み、アイデアを自由に形にすることにも少し似ています。

どちらも、とても便利です。

ただし、ノーコードツールで何でも自由に作れるとしても、どんなページを作るのか、どんなレイアウトにするのかは、利用者が考えなければなりません。

企業のWebサイトでは、それでは困ることがあります。

たとえば、Concrete CMSの記事ブロックには、文字や背景の色をカラーピッカーから選べる機能があります。

でも、担当者がそれぞれ「この青がきれいだから」「ここは赤くした方が目立つから」と好きな色を使っていたら、企業のブランドは簡単に崩れてしまいます。

そこで私たちが企業向けCMSを構築するときには、ブランドガイドラインから逆算して、あらかじめ必要なスタイルやコンポーネントを設計します。そして、カラーピッカーは無効にしておくことが多いです。

つまり、担当者全員をWebデザインの専門家にするのではなく、特別な知識や研修がなくても、一定のルールに沿ったWebページを作れる仕組みを用意するわけです。

企業向けCMSが長年担ってきた役割の一つです。

AIでも、業務に合わせた構築が重要

AIにも、同じ考え方を当てはめることができます。

汎用的な生成AIでは、「この仕事をAIにどう手伝ってもらうか」を利用者が考えます。

一方、AIエージェントを構築するときは、順番が逆です。

まず、その仕事が普段どのように行われているのかを理解する。

そのうえで、どこをAIが手伝えるのか、どんな情報を使わせるのか、どんな会社独自のルールに従わせるのかを考える。

仕事から逆算して、AIにどう手伝わせるかをあらかじめ設計する。

これが、私たちが考える企業向けのAIエージェント構築です。

社員一人ひとりが毎回良いプロンプトを考えるのではなく、普段の仕事の中で、必要なときに必要な形でAIが手伝ってくれる仕組みを作ります。

CMSだけではできなかったところを、AIが補う

私たち自身も、長年扱ってきたConcrete CMSにAIを組み込む取り組みを進めています。

先ほどのブランドガイドラインの話を考えてみましょう。

CMSでは、あらかじめ適切なスタイルやコンポーネントを用意することで、ガイドラインから外れにくい仕組みを作ることができます。

しかし、これまでは使ってはいけない色をチェックするようなことはできても、文章表現そのもののチェックはできませんでした。

たとえば、デジタル庁が定めているウェブコンテンツガイドラインには、性別や人種の固定観念を強調しないこと、のようなルールがありますが、機械的なチェックには向いておらず、人が読んで判断する必要がありました。

しかしAIがあれば、表現に踏み込んだレビューも効率的に行うことができます。

私たちは現在、Concrete CMSの編集画面の中で、AIがアクセシビリティやコンテンツガイドラインなどをチェックする仕組みを開発しています。

編集者が別のAIサービスを開いて、コンテンツをコピーし、「このガイドラインに沿ってチェックしてください」と毎回プロンプトを書く必要はありません。

いつも通りCMSで記事を書く。その仕事の中に、最初からAIによるチェックが組み込まれている。

「AIをどう使えばいいか」を編集者に考えてもらうのではなく、編集という仕事に合わせてAIの使い方をあらかじめ設計しているわけです。

多言語サイトにも、まだ人間の仕事が残っている

もう一つ、CMSの世界から例を挙げてみます。

Concrete CMSには、多言語のWebサイトを管理する機能があります。

日本語のページと英語のページを関連付け、それぞれの言語のコンテンツを一つのCMSで管理できます。

しかし、CMSが多言語コンテンツを管理できるからといって、文章そのものを翻訳してくれるわけではありません。

そのため従来は、日本語の原稿を翻訳会社へ渡し、翻訳された文章が戻ってきたら、担当者がCMSの英語ページへコピー&ペーストするといった作業が必要でした。

CMSによって多言語コンテンツを管理する仕組みはできた。でも、その途中にはまだ人間の仕事が残っていたわけです。

私たちが現在開発しているアドオンでは、この部分にもAIを利用しています。

AIに文章を翻訳してもらうだけではありません。その翻訳結果をCMSへ反映するところまで含めて、多言語サイトの運用の中にAIを組み込もうとしています。

「生成AIは翻訳が得意だから、社員に翻訳用のプロンプトを教えよう」ではありません。

多言語サイトを運用するという仕事から逆算して、AIをどこに組み込めばよいかを考える。

これも、汎用的な生成AIを使うことと、業務に合わせてAIエージェントを構築することの違いです。

全社員がプロンプトの達人になる必要はない

企業向けCMSが担ってきた役割は、Webサイトを更新する社員全員をWeb制作の専門家にすることではありません。

専門家でなくても、組織として一定の品質でWebサイトを運用できる仕組みを作ることです。

AIも同じではないでしょうか。

企業のAI活用を進めるために、社員全員がプロンプトの達人になる必要はありません。

もちろん、AIについて理解し、使い方を学ぶことには大きな価値があります。自由な発想でAIを使うからこそ生まれるアイデアもあります。

一方で、会社として繰り返し行う仕事まで、個人のAIスキルやプロンプトの工夫に依存させる必要はないはずです。

企業におけるAIの民主化とは、「誰でもAIを使いこなせるようにすること」だけではなく、「AIを使いこなさなくても、誰でもAIの恩恵を受けられる仕事を作ること」なのではないでしょうか。

何でもできるAIを社員に渡して、「うまく使ってください」とお願いする。

それだけではなく、実際の業務を理解して、AIに何を手伝わせればよいのかをあらかじめ考え、普段使っているシステムや仕事の流れの中に組み込む。

業務の中に入り込んで、AIをどう組み込めるかを考え、それを実際に使える仕組みにする。

それが、私たちマカルーデジタルがAIエージェント構築サービスで提供したい価値です。

次回:AIに入力してはいけない情報は、AIでは扱えない?

ただし、AIを実際の業務に組み込もうとすると、避けて通れない問題があります。

AIに仕事を手伝わせるためには、その仕事に必要な情報をAIにも扱わせる必要があるからです。

では、顧客の情報や社内の機密情報など、普段は「AIに入力してはいけない」としている情報を扱う仕事では、AIを使えないのでしょうか。

私たち自身、AI活用を積極的に推進する一方で、社内のAI利用には明確なルールを設けています。

次回は、私たちのAI利用ポリシーも紹介しながら、企業の情報を守りながらAIを業務に組み込むには、どう考えればよいのかについて書いてみたいと思います。